前歯の形を直したい
患者様は以前、他院にて上顎左側の中切歯・側切歯(左上1番・2番)にセラミックを装着されていました。
ただ、左右のバランス、特に歯肉のライン(写真の黄色の線)が対称になっていない点を、長く気にされていたそうです。
「もう一度きちんとやり直せないか」というご相談を受け、当院で再治療をすることにいたしました。

患者様は以前、他院にて上顎左側の中切歯・側切歯(左上1番・2番)にセラミックを装着されていました。
ただ、左右のバランス、特に歯肉のライン(写真の黄色の線)が対称になっていない点を、長く気にされていたそうです。
「もう一度きちんとやり直せないか」というご相談を受け、当院で再治療をすることにいたしました。
口腔内を拝見して、最初に目についたのは次の3点でした。
特にやっかいだったのが3つ目です。歯肉ラインのズレは、セラミックの形を整えるだけでは消えません。
「歯」だけを治しても、「口元」は整わないことは往々にしてあります。本症例の難しさはここにありました。
最終的に立てた計画は、装着済みのセラミックを一度外し、プロビジョナル(仮歯)で時間をかけて形を作り込んだうえで、最終のセラミックに置き換えるというものです。
仮歯の段階で歯肉のラインを綺麗にできるように治療計画を立てました。
率直にいうと、矯正治療で歯の位置自体を動かし、前歯のバランスを根本から整えるのが理想です。本症例も、矯正の適応ケースではありました。
ただ矯正は治療期間が年単位で長くかかります。患者様のご希望やライフスタイルを踏まえた結果、今回は矯正は選ばず、セラミックの形と歯肉ラインの調整で対応する方針にいたしました。
その分、補綴側でできることは全部やる、という前提で計画を組ませていただきました。
口腔内写真と歯型をお取りし、現在の状態を分析しました。
時間をかけたのは患者様への説明です。「どこをどう変えるのか」「どこは変わらないのか」を写真でお見せしながら、認識を擦り合わせていきました。ここを省略すると、最終段階で必ずズレが出るため、丁寧に患者様に説明した上で治療に臨みました。
装着されていたセラミックを慎重に外し、まずは仮歯(プロビジョナル)に置き換えました。
「仮歯」と聞くと一時的なものに思えるかもしれません。しかし本症例において、プロビジョナルは最終形を決める設計図そのものです。ここの精度が、最終のセラミックの精度をそのまま決めます。
プロビジョナルを装着した時点では、まだ通過点です。ここから歯肉のラインをきれいに整えていきます。
カギになったのは、サブジンジバルカウンター(歯肉縁下)という、歯茎の中に隠れる部分の角度と形です。
目に見えない部分なので軽視されがちですが、ここの形ひとつで歯肉のラインは大きく変わります。膨らみが強すぎれば歯肉は下がり、薄すぎれば動かない、零点数ミリ(0.数mm)単位の世界です。
本症例では左上1番の歯肉を少し下げ、右上1番との対称性を出したいと考えていました。
そこでサブジンジバルカウンターをわずかにフラット気味に整え、歯肉に「ここまで下がっても大丈夫だろう」というスペースを作るアプローチを取っています。
歯肉を整える方法には、歯肉移植などの外科処置もあります。ただ本症例では、患者様の身体的負担を考え、プロビジョナルの形態調整だけで歯肉を誘導する方針を選びました。
調整は約2週間ごと、合計4回ほどです。3回目を過ぎたあたりから歯肉のラインが落ち着きはじめ、左右差が目に見えて減ってきました。
プロビジョナルで完成した形を、そのまま最終のセラミックへ置き換えます。歯科技工士(人工歯を作製する専門家)と形・色・透明感を細かくやり取りしながら、最後の仕上げに入りました。
装着後は噛み合わせを確認し、必要に応じて微調整を加えて治療を終えています。
スキャロップというのは、歯と歯肉の境目が描く波状の曲線のことです。
健康な歯肉では、歯の中央に向かって高く盛り上がり、歯と歯の間(歯間部)に向かって低くなる、なだらかなアーチが描かれます。
この曲線が左右で対称、隣り合う歯となめらかに繋がっていることが自然な口元の条件です。私たちはこれを目指し、本ケースの治療にあたっています。
治療前は、上顎中切歯(右上1番・左上1番)の歯肉ラインに不揃いがあり、スキャロップの対称性・連続性が崩れていました。
ここで補綴物(被せ物)の見える部分の形だけをきれいにしても、歯肉そのものは動きません。見える部分の下、歯肉に接する形を設計し直す必要があったわけです。本症例ではここを何度も微調整し、左右が揃うラインを探りました。
歯の見た目は、歯そのものの形だけで決まるものではありません。歯肉のラインまで含めた全体のバランスで、口元の印象は決まります。
患者様が長年気にされていた違和感の正体は、まさにこの「歯肉のズレ」でした。スキャロップに細部までこだわった結果、その違和感を解消できたと考えています。
本症例で意識したのは、補綴物の形態だけで歯肉のラインまで誘導するという方針を、最後までブレずに通すことでした。
最初にプロビジョナルを装着した直後は、想定したほど歯肉が動かない時期もありました。外科処置に切り替える選択肢もありましたが、もう一度歯肉のラインを見直し、左上1番のサブジンジバルカウンターを再調整した結果、3回目の経過観察で歯肉のラインが揃いはじめました。
形が、組織を動かす。基本に忠実な対応で乗り切れた症例だったと感じています。
セラミック治療は、ただ歯を白くきれいにする治療ではありません。歯肉、噛み合わせ、隣の歯、お顔立ち、そのすべてを視野に入れて設計する治療です。
だからこそ削る量は最小限に、治せるところは形態の工夫で治す。これが本症例で大事にしたポイントでした。
治療後、患者様から「鏡を見るのが嫌じゃなくなりました」とお声をいただきました。長年のお悩みが少しでも軽くなったのなら、担当医として何よりの結果です。
今後も定期的なメンテナンスを通じて、この状態を長く保つお手伝いをしてまいります。
| 治療時期 | 2025年4月 |
|---|---|
| 主訴 | 前歯の形を直したい |
| 治療期間 | 2週間 |
| 治療費 | 前歯のセラミッククラウン 200,000円 |
| リスク | 過度な衝撃によるセラミック 破折 |